住空間は第三の皮膚
 
「シックハウス・シックビルド」

この言葉は、最近住宅を建てようとするほとんどの人が知っていと思いますが、
3〜4年前まではあまり知られていませんでした。

私が室内化学物質の問題に興味を持ち出したのは、1993年頃からで、
小さな新聞記事を見て、少しずつ勉強をはじめてきました。
大自然に囲まれ、環境に恵まれた地で幼児期を過ごしたため、建築家としての道を歩み出したときから、
合板、ビニールクロスなど新建材といわれる建築素材が感覚的に好きになれず、
大工と左官で仕上げる住宅を設計するようにしてました。

そんな折、ドイツから自然塗料を輸入している人から「室内化学物質の勉強に行きませんか?」というお誘いを受け、
1997年、日本から私を含め6人でドイツのハノーバー市近くの田舎町を訪れました。
生物学者のウラ・エーガス博士に室内化学物質が人体に影響を与えていることを2日間にわたって教えていただき、
このときの体験が私の環境への考え方を構築しました。

その後、ドイツのバウビオロギー(建築生物学)、バウエコロジー(地球環境)建築家で有名な
ホルガー・ケーニッヒ氏との出会いも私に大きな影響を与えてくれました。

最近、巷では健康ブームで「エコ」と名づけられた商品が大変多く溢れています。
建築では、健康住宅と証して建築材料の代替だけで消費者へ
イメージコマーシャルを行っている住宅会社を目にするようになってきた。

昭和30年代、「文化」という言葉が流行しました。
文化包丁、文化鍋、文化住宅...。
そして近年、物不足から解消された日本人が「健康」という意識を持ちはじめ、健康布団、健康鍋、そして健康住宅が誕生しました。
つまり「健康住宅」は、一つの流行の延長になっています。

このような風潮は、本当に安全な住まいを求めている人たちにとっては、甚だ迷惑なものです。
安全な住まいとは何かを考え、あらかじめ危険を予測し、対策を講じておく考えこそが私が唱える予防住宅の考え方です。

21世紀は、医療の考え方も、治療医学から予防医学へと動いていくことは否定できません。
人間が世の中に造り出した化学物質は、約1500万種類あるとウラ・エーガス博士は言っており、
そのうち人体や環境に何らかの影響を及ぼすものについて分かっているのは、せいぜい0.1%に過ぎないそうです。

今、決まり文句のように低ホルマリン、ノンホルマリンと唱えた建材が多く出てきていますが、
私には何とも滑稽なものにしか映りません。
つまりホルムアルデヒドを低濃度にすると、人間の五感に感じにくくなるのです。
あの鼻をツンとつく臭いや目に対する刺激が少なくなるので安全だと錯覚します。
いや、「錯覚させられる」と言ったほうが正しいかも知れません。              
なぜならホルムアルデヒドは、人体に悪影響を及ぼす化学物質の一つに過ぎず、
臭いがしなくなったからといって、問題が解決したことにはならないからです。

もう一言付け加えておくと、オーストリアの画家フンデルト・ワッサー氏は、
1964年にミュンヘンで「第三の皮膚」の権利のための演説をすでに行っており、
「一番目の皮膚は自分の皮膚、二番目の皮膚は衣服、三番目の皮膚は住まい、四番目の皮膚は社会環境、
五番目の皮膚は地球環境」と唱えました。

このように建築物の室内空間は、「第三の皮膚」であるという認識を持って、
建築の室内環境を考えなければならないことは言うまでもありません。

 
2001年1月22日 神戸新聞朝刊の「論」に記載記事より



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