Cafe 568 : 五郎八が思ったこと、感じたことを綴る 地熱住宅・五郎八の家
初めての美容院の設計


1984年、初めての美容室の設計依頼がきた。
まったく未知の世界である。
元々、理容室にも行かない私が美容室など知る由もなしである。
元来が何にでも好奇心の強い私なので、「ならば挑戦してみよう」と無謀とも思える。

初めてお施主様と初めてお会いしたが、ご夫婦で経営されている美容室であった。
親子三代続く、従業員6名ほどのお店で、
親戚筋にも同業者がおり、この地域では有名な美容室なのである。

後にわかったのだが、この美容室の男性オーナーが非常な神経質で、親戚筋もさじを投げ出していたようだ。
奇しくも私と同年齢であった。
最初に出会っての注文がこれまた憎いのである。
「パチンコ屋さんのように忙しく、ホテルのように静けさが欲しい」という、とんでもない要望であった。

戦後まもなく日本車の輸出をしていたアメリカが、日本に対して無理難題を押し付けたことがあった。
次の条件が整えば、「日本車を輸入するので条件を整えよ!」と。
現在の車の重量を半分にすることと、さらに価格を半分にすること。
つまり輸入を始めからさせない前提で条件を出したのである。
今回の美容室の設計もこれと同等とは思えないが、感覚的には似ているのである。

そこで私は次のような取ったのである。
既存の美容室や美容雑誌などを見ないこと!
なぜかと言うと、気に入ったものに出会うと、そこが目的やゴールになって近づくだけで、オリジナリティーが生まれない。
そこでオーナーにお客様の動線や、スタッフの方の動きなどを徹底的にリサーチしたのである。

その次にとった手法とは、美容室は女性が多く利用されるが、
洋服は着用されているが精神的には裸の状態なのであるから、どのようにしたら自分の姿が見られないか!
それから前面道路から敷地内に入る瞬間にも相当に気を配ったのである。
お客様が敷地に入る瞬間にオーナーの車が見えるよう、入り口の正面に専用のオープンガレージを設けた。
これはお客様がこれから美容室に行くとき、何がしかの不安を解消する方法論であった。
いろいろな場面で、お客様の心理を思考して設計をしたのである。

完成後、オーナーがハワイで美容室を経営されている友人へ完成写真を送ったところ、
「ハワイでこんな美容室がオープンしたら紛れもなく流行るよ!」とお墨付きを貰ったのである。

現在もまったく古さを感じさせないが、約25年経ってもオーナー夫婦から
いまだにまったく飽きが来ないのと、改装をする気持ちにもならないとも。
もっと凄いのは、古い店舗で仕事をいているときには、しょっちゅう喧嘩をしていたが、
新しくなった店舗に来てからは、まったく喧嘩をしなくなったそうだ。

このことは私が常に言っていた「室内環境波動」が既に実証されていたのである。
人間が生活する器である室内空間は、人間と同じ呼吸をしなければいけない。
このことが環境波動の基本である。

昨今の住宅や店舗・事務所・医院・高齢者施設等は、まったく室内空間が呼吸をしていないのが現状である。
25年前には、このような美容室のスタイルはまったくなかったのである。
私は既存のものには囚われないし、既成概念を持たないので、このようなユニークな美容室が完成したのである。
私を指名してくださったオーナーに深く感謝をしたい。


2009年3月3日 フロリダにて

エコロジー建築家 矢上五郎八
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